「あたしだって好きで一人で飲んでるんじゃないわよ。昨日、男と別れて、しかもこういう時に限って友達皆デートだし……飲まなきゃやってらんないっての!」


「はあ……」

 何か……いきなり愚痴られてるみたいだった。


「でも……酒に頼るのはよくないですよ」


「何よ! お金払ってるんだからあたしがいくら飲もうと勝手でしょ!」

 注意したのも、また睨みで返された。


「あーもうっ!お金って言ったらあの男のこと思い出したじゃない! どうしてくれんのよ!」


「えっ……」


 それって言いがかりじゃ……


「何よあいつ! 一流だか超一流だか知らないけど、どうせ親のコネで会社入ったんでしょ! 結局は親のお金なんでしょ!」


「はあ……」

 何かよく分からないけど、ここにはいない誰かに対しての文句が炸裂している。


 多分元彼なんだろうってことは、すぐに分かった。


「もう最悪! 男なんて皆女のことバカにしてんのよ! 自分の方が立場上だって勝手に思ってるんだから!」


「いや、決してそんなことは……」


「何様のつもりなのよ! あいつ!」


 聞いてない……。よっぽど頭にきてるみたいだ。



 それから暫くの間、俺は彼女の愚痴を聞くはめになった。


 気づけば十一時をとっくに過ぎていた。

 今日は十時上がりなのに、俺が席を立とうとするのを彼女は許してくれない。