五時五分。

 そろそろだな。


 時間を見て、俺はナツの会社を見上げた。


 今日もまた、三十分も早く来てしまった。でも暇だったし…途中で寄ったコンビニで少しだけ立ち読みしてたけど、頭の中がナツだらけだったから、漫画の文字が全く入らなかった。


 それよりは、何もすることがなくても、こうしてナツを待ってる方が楽しかった。


 好きな人を待つのは、楽しいことだと思う。

 今日は、どんな服を着てるのかな、とか、今どの辺にいるのかな、とか、向こうも俺のことを考えていてくれてるのかな、とか……好きな人のことだけを、ずっと考えていられる時間だから。




「旬」


 はっと気付くと、ナツが出入り口から出てきて、小走りでこっちに向かってきていた。


「ナツ!」


 久しぶりにナツの姿を見て、自分でも顔の力が緩むのが分かった。


「ごめんね。待った?」


「ううん! 全然」

 俺は首を横に振った。

 ナツとの待ち合わせは、いくらナツが遅れても、全然待ったことになんかならない。ていうか、俺が早く来てるだけだし。


「あれ……旬、制服なの?」

 ナツは俺を見て言った。


「うん。もう着納めだし。あ、そうだ」

 俺は制服を着てきた一番の理由を思い出し、学ランの第二ボタンに手をつけた。


 少し強く引っ張るとブチッという音をさせて、ボタンは取れた。


「はい」

 俺は、それをナツに手渡す。


「え?」

 ナツはきょとんとしている。


「貰ってよ。俺、夢だったんだ。彼女に第二ボタン渡すの」


 これが目的だった。


 卒業の定番だけど、中学の時はブレザーだったから、やったことがなかった。

 高校に入ってから、年上の卒業式の時に、ボタンを貰いにいく女子を見て、初めて知った。

 第二ボタンは、その人の心に一番近いから欲しいものなんだって。


 だから、それなら俺は一番好きな人にそれを渡したいと思ったんだ。

 俺の気持ちを、好きな人に……