「うん。初めはさ、寝ぼけて自分のケータイが鳴ってると思ってとったんだよ。俺あの時寝てたから」

 シュン君は、笑顔を絶やさないでそう話す。


「でも分かるよ。ナツの声だから。あの時、一番聞きたいって思ってた声だったからさ」


 シュン君の顔が、より一層綻んだ。

 それはとても優しくて、純粋で……

 そんな顔でそんなこと言われたら……


「何言ってるんだろうな、俺……」

 ハハッ……と軽く笑いながら、シュン君はあたしの方を見た。


「あれ……ナツ?」


 顔が熱くなっているのは自分でも分かったけど、あたしはその顔を隠すこともできないで、固まっていた。


「へ……変なこと言わないでっ……」

 そう言うのが精一杯で、あたしは下を向いた。

 きっと、思いっきり見られたに違いない。


 でも……面と向かってそういう風に言われたのって、初めてだし……それに、表情とかでそれが嘘じゃないって、本気だってことが、伝わってきたから……そうすると、赤くならずになんて、無理だった。




 気がつくと、もう家の近くまで来ていた。


「あ、あたしここだから」

 コーボの前に着くとあたしは立ち止まってシュン君に言った。


「ここ?」

 シュン君も立ち止まって、コーボを見上げる。


「うん。ここの三階」


 無事に(?)ここまで帰ってこれたことに、あたしは安心していた。


 でも、心の奥片隅では、もう着いちゃったのかと、どこか残念がっている自分がいるのも、確かだった。