「本当に覚えてないの?顔とか…」


 あたしは必死に昨日の夜と今朝の記憶を辿って、思い出そうとする。


 すると、薄ぼんやりとしていた印象が、段々はっきりしてきた。


「顔は、格好いい方に入ると思うよっ……ていうかどちらかと言うと可愛い系?」


 そうだ、確かそうだ。

 男のわりには目鼻顔立ちとか、結構整ってて、でも、印象的には、幼いっていうか、話し方のせいかな……


「へぇ? 年下? 年上? 同い年?」

 畳みかけるようにカオルは聞いてくる。


 それを聞いて考えて、あたしはふと気付いた。


「あたし……知らない」


「え?」


「その人のこと、全然知らない……年どころか、名前も……」


 あたしは、急いでいたとはいえ、あの男に何も聞かずにホテルを出てきてしまった。


「え……もう一回言うけど、彼氏でしょ?」


「かっ…彼氏って言っても、あたしは別に付き合おうってわけじゃ……相手のことだって、好きどころか知らないし!」

 あたしは、まるでカオルに弁解するように必死になってそう言った。


 あたしは別に、あの人と付き合ってもいいって思ったわけじゃない。

 冗談じゃない。何で酔った勢いで一回ヤっちゃった相手といちいち付き合わないといけないの。


「でも告られてOKしたんでしょ?」


「それはっ…元はといえば勘違いで……」


「その誤解も解かないでもう付き合う方向で考えてるんじゃないの?」


 それを言われたら、ぐうの音も出ない。


 確かにあたしは、告白されて、勘違いされて、それからでも弁解すればいいものを、相手がもう付き合う前提で言ってきた言葉に思わず勢いで頷いてしまって……

 それでしょうがなく、付き合うみたいになって……


「でもっ…あの場では頷くしかなかったんだってば!」

 そう……あんな嬉しそうな顔をされたら、後になって勘違いなんて言う方が悪い気がして……言えるわけがない。