「何もってことはないでしょ~?」

 更に詰め寄られ、背中にに汗が流れるのを感じた。


「ちょ…ちょっと、そんなことより化粧させてっ。着替えもまだだし……」

 あたしはそう言って話をそらそうとした。


 すると、カオルは意外とすぐに引いてくれた。…と、思ったのは間違いだった。


「ま、今は確かに時間ないからいいけど? あとでじっくり聞かせてもらうから」


 カオルはそう言って小悪魔っぽく笑顔をあたしに見せた。


「じゃ、あたしは先行くからね~♪」

 手を振ってカオルはロッカールームを出て行った。


 あの調子じゃ絶対白状させられる……


 そう思いながら、あたしは制服に着替えて、簡単に化粧をして、オフィスへ向かった。



「へ~ぇ?」


 昼休みあたしは社員食堂でカオルに昨日の出来事を全て話した。というか、予想通り白状させられた。


 一人で居酒屋に行って酔いつぶれて、その居酒屋の店員に愚痴って、その店員とホテルに行って、朝気付いた時には、もう全て終わった後で……そしてその男に告白されて、付き合うことになったということ……覚えている限りで全部話した。


 それを聞いた後、カオルはにんまりと笑ってあたしを見ている。


「なーによぉ。一昨日男と別れて落ち込んでると思ったら……切り替え早いじゃない」

 こういう話題が好きなカオルは、面白そうにそう言う。


「きっ…切り替えなんて……そういうつもりじゃないし!」


 そう……全くそのつもりはなかった。

 なのに、何でこんなことに……


「それで? 相手ってどんなの?」

 カオルに興味津々な聞かれて、あたしはふと今朝の彼を思い出そうとする。

 思いだそうとしたんだけど……


「……あんまり覚えてないかも」


「は?」

 あたしが呟くと、カオルは素っ頓狂な声を出した。


「覚えてないって……彼氏でしょ?」


 カオルに言われて、あたしは返す言葉もない。

 でも、覚えてないのは本当だからしょうがない。