今はとにかく時間がないからしょうがなく、会社に行ってから化粧をしようと思って、とりあえずあたしは支度を急いだ。


 鞄を持って、ふとお金のことが頭をよぎって、


「ごめんねっ…お金ここに置いておくから……」

 それだけ言って、電話台の上に適当にお金を置いて、部屋を出た。


 その時はあまりにも急いでいたせいで、うっかり色んなことを忘れていたのに、気づきもしなかった。



「奈津美、おはよー。今日はいつもより遅いじゃない」

 ロッカールームへ行くと、先に来ていたカオルに声をかけられた。


 幸い、ホテルが会社とそんなに離れていないところにあったおかげで、タクシーを使って何とか時間ギリギリにここまでこれた。


「うん……ちょっと色々あって……」


 あたし自身よく分からない事情を、しかもことがことだけに、カオルに言えるわけはない。


 だけど、カオルは予想以上に目聡かった。


「あれ? 奈津美、昨日と服一緒じゃない? ……しかもスッピン?」

 カオルからの鋭い指摘に、口から心臓が飛び出そうなくらいに驚いた。


「あ……もしかして~…?」

 カオルはにんまりと笑う。


 何を考えているのか、大体は予想がついた。ていうか、あたしのこの状態はそれしか連想させないから、しょうがないけど……


「なになに~? 昨日は何があったの~?」

 カオルは、じりじりとあたしに詰め寄ってくる。明らかに、面白がってる顔だ。


「ナっなにって別に何も……」

 声が裏返ってしまい、自分でも動揺してるのが分かる。