「あ、あたしここだから」

 俺が自分と闘っていると、ナツがそう言って立ち止まる。

 そこは、マンション……というより、コーポっていうのか。五階建ての建物の前だった。


「ここ?」


「うん。ここの三階」


 もう着いちゃったのか……


「部屋まで送るよ」


「ううん。大丈夫。いいよ、ここで」


 俺としては、あと数秒でもナツと一緒に居たかったから言ったのに、ナツは首を横に振った。


「そっか……」

 しつこく言ってウザがられるのも嫌だったから、ここは素直に引いておいた。


「あとで電話していい?」

 俺的に控えめにそう言うと、ナツは何でかまた赤くなって、


「うん」

 と頷いた。


 理由はわかんないけど、それ可愛すぎですから!


「それじゃあ、ね。送ってくれてありがとう」


 俺がまた抱きしめたい衝動にかられていると、ナツの方からそう言われた。


「あ、うん。じゃ…またな」


 やっぱり少し名残惜しく、言葉を交わすと、ナツはコーポの中に入っていった。


 俺はそれを見届けると、家に向かって歩き始めた。



 ナツは、可愛すぎる。いや、本当、マジで。


 今日1日で、しかも付き合い始めて一日目で、ナツのことをほんの少ししかしることが出来なかったけど、俺の中のナツへの気持ちは、ものすごく膨らんでいた。


 それでもまだ足りないくらいに、俺はナツのことを知りたいと思っていた。


 こんな気持ち、初めてだ。