「すっげー嬉しい! ナツミさんが俺の彼女になるなんて」

 唇を離してそう言うと、何だか違和感があった。


「あ、付き合うんだったらナツミさんってさん付けじゃなくていいか。ナツミ……ナツ。なぁ、ナツって呼んでいい?」

 付き合うんなら、呼びやすいように呼び合いたい。俺は愛称(っていうほどヒネリないけど)を考えた。


「うん……」

 ナツミさん……いや、ナツは頷いてくれた。


「ナツ~~」

 嬉しさとナツへの愛情(何か恥ずかしっ)を込めて、俺はナツの口とか、おでことか、ほっぺたに、たくさんキスをした。


 今、俺の下にいる人が、俺の好きな人だと、それが彼女だと思ったら、とても愛しく思える。

 昨日の今日でそうなるなんて、不思議だ。



 このままナツを抱き締めて、また、一つになりたい。そう思った。


「あっ!」

 ナツはいきなり叫んで、勢いよく起き上がった。その拍子に、俺の体が離れる。


「今何時!?」

 ナツはベッドの側に付いていた時計を見る。


 八時三分だった。


「嘘っ……もうこんな時間なの!? 仕事行かないとっ……」

 ナツは慌てた様子でベッドを降りた。


 あたしの服どこ!? とか、あっ、どうしよう、スッピンだ~……とか言いながら、ナツは部屋を駆け回っている。


 俺は拍子抜けして、呆然とその様子を見ていた。


「ごめんねっ……お金ここに置いておくから……」

 急いで着替え終わったナツは、電話台の上に万札を置いて、部屋を出て行った。

 俺は一瞬お金の意味が分からなくて、でもすぐにホテル代のことだと理解した。


 止める隙もなかった……なんか、いきなり現実戻されたようだ。


「あ……」

 俺は、重大なことに気付いた。

 一番大事なことを、忘れていた。


 俺は、彼女の連絡先を知らない。