こんな気持ちでもちゃんとバイトをしてる自分は偉いと思う。


 でも、俺が何もしなくなったら、今度こそ本当にナツがいなくなってしまいそうだから……それだけが怖くて、俺はやらないといけないことだけはしていた。



「はぁー……」


 今日のバイトを終えた俺は、着替えをしながらもため息をついた。


 一応、バイトに顔を出して仕事はしてるものの、身が入らなくて、自分でも分かるぐらいたくさんため息をついていた。


 携帯を見てみても、ナツからはメールも着信もない。それを確認しただけで、俺のテンションはどんどん下がっていく。


 もうダメなのかな……


 流石の俺にも、そんな考えが浮かんでしまう。



 その時、俺のロッカーからヒラリと紙が落ちた。俺はそれに気付いて拾った。


 それは、前になるちゃんからもらった、雑誌の切り抜きだった。


 金を貯めて、ナツにあげようと思っていた、口紅の……


 俺はそれを見て、すぐに更衣室を飛び出した。



「店長!」


 厨房の入り口へ行き、ケーキを作っている店長を呼んだ。


「沖田君……どうしたの? 今日はもう上がったんじゃあ……」

 店長は驚いた顔で俺の方を見た。


「あの、頼みがあるんですけど」


「え、何? どうかしたの?」


「給料、前借りしたいんですけど、だめですか?」


「え?」

 店長は目を丸くしている。そりゃそうだろう。


「前借りって……給料日、明日だよ?」


 そう。カフェのバイトの給料日は丁度明日だ。でも……


「急ぎなんです。少しだけでもいいですから……」


 明日までなんて待っていられない。今じゃないとダメなんだ。


「うーん……」

 考えこんでいる店長を、俺は祈るように見ていた。


「じゃあ……今回だけ、特別ね」


「あ、ありがとうございます!」

 俺はほっとして店長に深く頭を下げた。


「いいよいいよ。沖田君にはこの前、無理に残ってもらったから。そのお礼だよ。じゃあちょっと待ってて」

 店長はそう言って、厨房から出て行った。



 よかった……これで買える。