「何だ、別れ話でもされたのか?」


「ちがいま……」


 『す』と言いかけて、俺は口をつぐんだ。


 まだ、別れるとはっきり言われたわけじゃない。一応、まだ俺達は付き合ってることになっているはずだ。でも、ナツの方からその話を切り出されるのも、時間の問題かもしれない。


「図星か?」

 先輩はズバズバと痛いことを突いてくる。


「ていうか! 先輩も悪いんですよ! 先輩が昨日……」


『もっと早く来てくれてたら、俺とナツはあんなことにならなかったのかもしれないのに!』


 思わず言いそうになって、やめた。


 大川先輩は悪くない。先輩は本当は入ってなかったのに、無理して入って、閉店までいたらしい。それで今日も開店からのシフトだ。キツイに決まってる。さっきからあくびをかみ殺してるのを何度も見た。


 それに、先輩が早く来ていようが、変わらなかったと思う。俺が最低限しないといけないことをしてなかったんだから。俺が今までナツに辛い思いをさせてたんだから。


 一番悪いのは俺なんだから。


「はぁー……」


 先輩のせいにしてしまいそうになって、俺は自分が嫌になった。


「……なんだよ。俺、言っちゃいけないことまで言ったのか? それなら謝るからそこまで落ち込むなよ」


 俺の様子ははたから見たらよっぽどらしい。先輩はいつもと違って心配しているような顔で言ってきた。


「先輩……」


 先輩は、俺と違って大人だ。確かに俺より一つ年上だけど……それよりも、考え方が大人な気がする。


 自分が悪いのを、人のせいにしようとした子供の俺と違って。


「俺、先輩が羨ましいです」


「……はあ?」

 俺が言うと、先輩に思いっきり変な顔で見られた。