その後、俺はどうしたのか、はっきり覚えていない。


 でも気付いたら、俺は自分の家に帰ってきていた。


 玄関で靴を履いたまましゃがみ込んで、ナツに言われたことが頭の中で繰り返された。



『旬の顔……見たくない』


 ナツに拒絶された。初めて……


 今まで俺がどんなバカなことしようと、ナツは優しく許してくれた。

 なのに、今日は、そういうわけにはいかなかった。


 俺はダウンのポケットから携帯を出して、電源を入れた。そして、メールの問い合わせをする。


 すぐに着メロが鳴って、メールがきていたことを知らされた。それは間違いなく、ナツからの着信音だった。


 そのメールを開いてみると、


『まだバイト?何かあった?
今から迎えに行くからね。』


 そう表示された。


 それを見たらすぐに、電池が切れてその画面が消えてしまった。



 ……バカだ、俺。


『ナツ! 何でここにいんの? もしかして迎えに来てくれた?』


 そんなの、このメール見てたらすぐに分かったことなのに……そんなの、言うことじゃなかったのに……


 普通に考えたら分かることじゃん。一時間以上連絡しなかったら、メールぐらいは来てるだろうってことぐらい。


 あの時、一分一秒でも着替えるのが遅くなって、ナツに会うのが遅くなったって、電話の一本でもかけておけば、ナツは怒ることなんてなかったんじゃん。


 俺は、俺のことしか考えてなかったんだ。

 ナツがどんな気持ちになっていたかなんて、考えもしてなかったし、気付きもしなかったんだ。


 それなら、ナツが俺のこと、嫌になったって……


 そう考えたら、目の前がぼやけた。


 泣くことなんてめったなことなのに……俺は泣いてしまっていた。


「ナツ……」



 嫌だよ、ナツ。


 俺のこと、嫌いにならないで……


 俺から、離れていかないで……