「ナツ……ごめん。ごめんな……」

 バカな俺は、こうやって謝ること以外、何もできなかった。


「もう嫌……。これじゃあ、あたしばっかりが旬のこと好きなだけみたい……」


「え……?」


 ナツ……今何て……


 俺が固まってしまった瞬間に、ナツの手が振りほどかれて、ナツは走って行ってしまう。


「ナツ……!」

 俺は必死にナツを呼んだ。


「ナツ! 待って!」


 どんどん遠ざかっていくナツを、俺は追いかけた。


 俺にはナツしか見えてなくて、そのせいで周りの人が見えなくて、たくさんぶつかって、なかなかナツに近づけなかった。それどころか、俺とナツの距離は、どんどん離れていった。




 ナツのコーポまできて、俺は階段を駆け上った。

 三階のナツの部屋まで行き、ドアノブに手をかけた。


「ナツ!」


 ドアノブを回そうとしても、動かない。鍵をかけられたみたいだった。


「ナツ……ごめん……」

 ドアの向こうにいるはずのナツに、俺は言った。


「俺……ナツがそういう風に思ってたとか、全然考えてなくて……」

 走って息が上がってるせいで、上手く言葉が出なかった。


「ねぇナツ……開けて……入れてよ」


 とにかく、ナツの顔を見て、ちゃんと謝って、許してほしかった。


「……帰って」

 すぐそばでナツの声が聞こえた。


「ナツ……」


「帰って。旬の顔……見たくない」


 ナツのその一言に、俺の頭は真っ白になった。


「帰って……」