「え……?」

 いきなりで、俺は何のことか、全く分からなかった。


「少しは悪いとか……申し訳なさそうな態度はとれないの?」

 今度は大きな声で、怒鳴るようにナツが言った。


「あたし……不安だったんだからっ。旬が……いつも時間通りになのに連絡もなく一時間以上も遅れて……電話しても繋がらないし……心配したんだからっ!」


 こんなナツは初めてだった。


「あたしが……そういうの思わないとでも思ったの? 旬が何時間遅れても、平気な顔して、簡単に許すとでも思ってんの!?」


 こんな街中で、こんなに大きな声で、俺に対して、こんなことを言うナツは初めてだった。


「そんなことないっ! ごめんっ……俺、そこまで考えられなくて……でも連絡できなかったのは、客が多かったから時間なくて……終わってから、ナツの家まで走りながら電話しようと思ったから…その前に呼び止められて……」

 俺はただ焦って、必死に連絡できなかったわけを話した。


「もういい!」

 俺のそんな言葉は、ナツに簡単に遮られてしまった。


 でも、どんなに言おうと、それが今更ただの言い訳じみてしまうのは、自分でも分かっいた。


「何が『ナツがいれば生きていける』よ。そう言えば機嫌とれるとでも思ってるの!? どうせ旬はあたしが身の回りのことをやってくれるから、あたしがいないとダメなんでしょ!? そんなの別にあたしなんかじゃなくてもいいじゃない!」


「ナツ……違うよ……」


 そんなこと思ってない。思ったことなんて、ないよ。


「何であたしがこんな思いしないといけないの!?」


 俺の言葉は、ナツに全く届かない。


「旬の部屋の掃除も……料理も洗濯も、あたしがやってくれて当たり前って思ってんの!? あたしは旬の母親じゃないのよ!」


 そこまで言われて、俺は何も言えなくなってしまった。


 ナツからしてみたら、全部、本当のことだ。

 俺は、ナツに今までそう思われてもしょうがないことをしてたんだ。