「あ。そーだ。今度行ったらさ、また帰りホテル行く?」

 ちょっとからかうつもりで、俺は笑って言った。


「もう! 何言ってんの! あたしは行かないからね! ていうか、あの時のことは忘れてってば」

 必死なナツが可愛い。


「普通彼女との初めてのエッチのこと忘れられるわけないじゃ~ん? ナツは忘れてるみたいだけどさぁ」


「もう! 旬!」

 ナツは顔をリンゴみたいに真っ赤にして俺をキッと睨む。でも、それすらも可愛い。


「本当、あん時のナツ可愛かったなぁ」


 勿論、思い出すのはその時のこと。

 あの時のナツは、どこの誰よりも可愛くて、綺麗だった。


「あ、今もめちゃくちゃ可愛いけど。つうか、ナツはいつどこで何してても可愛い」


 どこの誰よりも可愛くて、綺麗なのは、今も変わらない。ナツはそんなナツのまま、変わらない。


「どこが?」

 突然、ナツが真剣な顔になって聞いてきた。


「具体的に、どこが?」


 そうやって聞かれて、頭に浮かんだのは、やっぱりナツの全てだった。ナツの一つ一つの表情に、行動に、言葉に……


「え~……そんなの恥ずかしくて言えないって」

 それを言うのは、流石の俺も恥ずかしかった。


「いいじゃん。何でも! 何がにしろ、俺がナツのこと好きなのは変わんねえもん」

 顔が熱いのが分かった。今の俺、多分顔が赤いんだろうな。


 ナツの顔も赤くなっていて、俺とナツはお揃いなんだろうと思った。



 些細なことがあっても、すぐにいつも通りになれた。

 これからも、ちょっとやそっとのことじゃ、俺とナツの関係は崩れることなんてないだろうと、俺らの関係はそんなにヤワじゃないと、この時の俺はそう信じていた。