「よかった。いい場所取れて」


「そうだなぁ」


 館内に入って、真ん中の見やすいところを取れた。

 勿論、並んで座る。



 映画が始まり、観客は静かになった。


 この映画は、洋画のラブコメディーだ。有名なキャストが勢揃いで、話題にもなってる。


 コメディー的な要素が多いから、たまに笑いが起きる。俺も笑ったし、ナツも笑ってた。



 クライマックスでは、主役二人の甘いシーンがスクリーンいっぱいに映った。


 俺の隣で……ナツが座ってる方と反対側で、ひそひそとした声が聞こえた。

 横目で見てみると、俺の隣もカップルだった。


 その二人は、手を繋いで、映画そっちのけでベタベタしてる。


 ラブコメディーということもあってか、館内には、カップルが目立って何組かいた。


 まぁ、映画館のカップルってこんなもんだよな。


 そう思いながらふと別のところへ目をやると、俺の三列ほど前にもカップルがいて、その二人は、何とキスをしていた。


 スクリーン上では、主演二人が激しくキスを交わしていて、それに誘発されたのか、そのカップルも激しかった。


 ……ていうか、後ろの方ならともかく、そんな前の方だったら丸見えじゃん。なのにあんなに堂々と……


 すっげーうらやましい……


 公の場であんな堂々と、カップルしかしないことをできることは、すごくうらやましかった。


 俺はナツの方を見た。


 ナツは、カップルの方には気付くこともなく、映画のスクリーンをじっと見ていた。


 俺達も……キスまではしなくても(いや、俺はしたいけど)手を繋ぐぐらいなら……


 俺はナツの手を見る。


 ナツの手は、膝の上の鞄の上に置いてある。

 俺は生唾を飲み込んだ。


 さりげなーく握れば大丈夫……だよな。


 でも、かなり緊張する。心臓がものすごい早さで動いてるのが分かる。


 落ち着け俺の心臓! さりげなくだ!


 俺はナツに分からないように深呼吸をした。


 ……よし!


 そして、俺はナツの手を握ろうと、手を伸ばした。


 あと五センチ………三センチ…………