―――ガラッ

「おっはよ~」

入って来ただけで空気が変わる。

「悠斗、おっはよ~!」

「来たよ、唯衣のいとしの西嶋君」

「ちょっと、美優!」

「いいじゃない。きっと誰にも聞こえてないんだし」

それもそうだ。

だって、悠ちゃんはかなりのイケメン。さらにおちゃらけた性格のおかげで男女共に人気。

ファンクラブなんかもあるらしく、ほとんどの女子の目が悠ちゃんに釘付けになっている。

「相変わらずすごい人気よね、西嶋君」

「うん…」

あたしと悠ちゃんには幼なじみという関係がなければ全くと言っていいほど関わりがない。

あたしはごく普通で、派手に騒いでいる悠ちゃんとは何の接点もない。

「はぁ~」

と考え込んで溜め息をつくと

「唯衣も大変ね。あんな人気な西嶋君にずっと片想いなんて」

「うん…」

「そろそろ他の人を好きになってみたら?」

「無理だよ~」

「いつまでも振り向いてくれない相手より、唯衣を好きになってくれる人と付き合った方がいいと思うよ?」

「それは分かってるけど…」

あたしは幼い頃の約束を守り続けている。


「どんなに大きくなっても、何があっても離れない――――」

それが、あたしが頑張れる唯一の理由。

きっと悠ちゃんはそんな約束なんて覚えていない。

でも、あたしは小さい頃から悠ちゃんが好きで、悠ちゃんと約束した時、すごく嬉しかった。

破ったら、もう繋ぎ止めるものが無くなって昔のあたし達に戻れなくなる気がして。

守ってたら、また悠ちゃんがあたしに笑いかけてくれる気がして。

そうやってこの10年間を過ごしてきた。

でも、もし悠ちゃんがこのままなら、あたしはもう、あの約束を守っていける自信がないよ。

1度だけでいいの。1度でいいからあたしに、あなたの笑顔を見せて――――