こんなにスリルを抱えて電車に乗るのは、事実初めてのことである。
お茶の橋から出てる快速列車に乗り込んだ私たちは、意外にも母が全く周りを気にしていないようだったので、同じ車両に乗ることにした。
車内にも人が多く、多分気付かれないだろう。
快速列車は、気持ちのいいくらい駅を飛ばしていく。
いつも降りている六ツ谷駅も、御覧の通り豪速で通過。
ほんのり加藤先生を思い出した私に、お姉ちゃんの関係ない声が遮る。
「やっぱり千宿で降りんのかな。アキはどう思う」
「えっ!あ、えーっと・・・」
脳内が加藤先生から一転、お姉ちゃんの質問に切り替わる。
妄想していると頭の中で現実が薄れるため、こういうときには苦しい。
「何考えてたんだよ。変なとこみて一人でにやけて。あたしが何も気づいていないとでも思ったか」
「いや、ちょっとぼーっとしてただけだから」
照れ笑いでごまかした私。でもその時のお姉ちゃんの顔は、なぜか私のことを真剣に見つめていたことに私は気付いていなかった。
実を言うと、お姉ちゃんの言葉には、言葉以上の意味がこもっていたのである。
『加藤のこと、考えてんだろ』
声にならないお姉ちゃんの想いは、私には聞こえていなかった。
