先生の口元は、にやりと笑った。
おぞましい顔も、次に出る言葉が気になるからか、非常に魅力的に見えてしまう。
「加藤拓人って言うんだ。「人生を拓いていけ」でタクト」
「・・・」
なんとナウい名前であるか。40代のオヤジとは思えない名前である。
聞き違いであるか。そのまま私の顔は、数秒間のフリーズを経てようやく正気に戻った。
「ドウモハジメマシテ」
改めて私がそう言うと、きらっと歯をのぞかせて笑った先生は言った。
「そうだね、フルネーム教えてなかったもんねえ。こちらこそ、よろしく」
私はもっと凛々しくて勇ましい名前を想像していたのだが。
「勇」とか。そのまんまであるが。
私の耳に3カ月分の耳垢が埋もれているのなら、聞き違いかもしれない。
だが私は当然恋する乙女、耳垢の処理くらいはこまめに行っている身だ。
ということは、れっきとした聞き違えではないと言うことになる。
単純なことでもあまりに信じられない事実に出くわしたとき、人は何らかの理屈をつけて疑いにかかるらしい。
この時の私も、そうだったのだ。
