そこまで言ったかと思うと、ジローは切なそうな笑いを浮かべた。声までもが明るくふるまっているのに震えている。
「でも相手は結婚してるしオヤジだろ?それでも加藤先生に恋してるお前を見て、俺だったら結婚もしてないし、オヤジでもないし、いつでも隣にいてやれるのに。何度もそう思った」
「・・・それはそうだったかも。相手が結婚してるって結構重かったよ、私も」
「そうだろ?」
妄想ばっかりで何も考えていないような私だったが、内心はかなり辛かったのかもしれない。
「それでも加藤先生が春川を変えてくれたように、お前も俺を変えてくれた。お前のおかげで、俺はようやく自分の本心を知ることができた」
「えっ・・・・?」
何のことだろうと思った私は、ジローの次の反応を待った。
ジローはそのまま持っていたカバンに手をいれて、何かを取り出した。その右手には、ペンのようなものがある。
「あれ?そのペンもしかしてあのとき私が持って帰っちゃった・・・」
「そうだよ」
ペンの正体に気づいた私は、ハッとして驚いたようにジローのほうを見た。
「俺、医学部受けるつもりだったんだけどやめたんだ。本当は昔から英語が好きで、文学部の英文科に行くことになった。だからこれはもう必要ないんだよ」
ニッと笑みを浮かべたジローは、私の左手にそのペンを握らせた。
「今日は14日だろ。ホワイトデーのお返しってことで」
こんなきらきらした人の表情を、私は生まれて初めて見たきがした。
本心に従った人の達成感の魔力を、私はこの時知ったのだ。
