ナガレの騎士 ~光の竜と呪いの姫~

見れば、街道の隅、脇の方に小さな店のようなものがある。
店といっても、地面に敷かれた布の上に色々なものが並べてあるだけ。
物売りに見えなくもないが、あちらの港の方のにぎわいとみなりでは雲泥の差。



座っている老人は、お世辞にもきれいとは言えない格好だった。




「リンゴなら他にもたくさん売っているわ。
おじいさんはこんなところで何をしているの?」
「わしかい?わしはただ、リンゴを売っているだけだよ」
「ふぅん・・・。
でも、こんなにすごい貿易の街なのに、リンゴだけを売るなんていう人もいるのね」






父に散々と貿易の話を聞かされたとだけあって、少々詳しいアンリ。
貿易の街というのだから貿易商もそれ相応のものだと思っていたのに。
全員がそうではないようだ。




「それはほら、貿易の街だからこそ出来る事さ。
わしのリンゴは他のとは少しばかり違うんだよ」
「そうなの?どんなふうに?」
「それは食べてみないと分からないねぇ」
「えぇ、おじいさんの意地悪!教えてくれたっていいでしょう?」



ぷぅ、と口を膨らますアンリに、笑った老人。
笑ったとはいえ、帽子に隠れているので深く表情は読めない。




「ならば、リンゴを買うといい」
「・・あ、そうか。そういえばそうね・・・」
「どうして悩むんだい?知りたいんだろ?」
「知りたいけど・・・私、お母様に聞いてからでないと」




サンシェットは確かに貿易の街として栄えるが、
その反面、取引・交渉の金銀を狙って盗人たちも多い。

一歩外に出れば貧民層は瞬く間に広がっている。治安が悪いのも当然。
こんな風にきらびやかに歩いていられるのは、この東地区の街道くらいだ。



母との約束もあって、アンリは悩ましげに眉を寄せる。





「じゃあ、タダであげよう。それならいいかい?」
「え!?でも、おじいさんはいいの?商売にならないわ」
「いいんだよ。久しぶりにお嬢さんと話ができて楽しかった」
「おじいさん・・・・。
私に、何か出来る事はないかしら。なんでもするわ」




「・・・だが・・・」




「いいのよ!私なんかで出来る事があるなら・・・何でも言って!」