健と桜井さんが付き合ったという話は瞬く間に学校中に広まった。健は学年問わず人気があったし、桜井さんも大人しくて可愛らしい印象があったから、2人はお似合いのカップルてしてみんなからお祝いされていた。

「ねえ、健。わたしに桜井さんのこと紹介してくれないの?」

「もちろん紹介する。桃音とも仲良くなってほしいからな」

 とっても眩しい笑顔。
なんにも知らないでただ純粋にわたしの手を引いて桜井さんのところへ連れて行こうとする健。
 わたしは繋がれた手を見て微笑んだ。
 ほら、あの子が桜井さんでしょ?わたしたちの繋がれた手を見て、酷い顔してる。

「健くん」

「あ、桜井。こいつ俺の幼なじみで桃音ってゆーんだ」

 トン、と背中を押されて桜井さんの前に出る。少し戸惑ったように手を胸の前で握る姿は、やはりわたしと違ってずいぶんと可愛らしく思えた。

「わたし、桃音。よろしくね」

「わ、わたしは桜井里奈です。よろしく」

 動揺を含んだような表情。
わたしはふんわり、となるべく綺麗に見えるよう笑う。
緊張が解けたのか、同じように笑いかえしてくる彼女が憎らしかった。

「あのね、健ってちょーっとドジなとこあったりしてね」

 それでね、と話をつけたそうとしたら、健に思い切り口を押さえられた。

「そうゆう余計なことは言わなくていいんだってーの」

 恥ずかしそうにそっぽを向く健の頬をつつく。

 いいじゃん。わたしと健だけが知ってる話を桜井さんにもしてあげようよ。
だって、ほら、醜い嫉妬にかられた顔でこっちを見てる。