「………」
「………」
無言の二人。
そもそも、私は高梨を好いてないのだから話す必要なんてないわけ。
ただ帰る方向が同じなだけ。
ただ同じ空間にいるだけ。
「なんで黙ってるの?」
「高梨だって黙ってんじゃん」
「そーだね…市ノ瀬はさ、なんでマネになったの?その実力なら、女バレで余裕にスタメンじゃん」
「男子の恐ろしいほど早いスパイクを受けたいから」
「……は?」
今までにないくらいにすっとぼけた高梨の顔。
確かにこんな答え出されて、ああそうですか、なんて思えるわけない。
「あははっ!!」
「なんだよ、悪いかよ」
「いや。俺、キャプテンに惚れてマネやってるんだと思ってた」
「まさか!」
そんなはずない。
その時突然、ガタンッと大きく電車が揺れる。
立っていた私達の体も揺れ、私はバランスを崩した。
おっと高梨がとっさに私の肩を抱いた。
「なんだ…!?」
急停車した電車の中の客は混乱していた。
高梨をチラッとみると混乱どころか、かなり冷静だった。
そのせいか私も全く焦っていなかった。
高梨がいるから、そんな風に一瞬思ったが、いやいやと断固拒否。
だってサボり魔高梨だぞ!?
こんなやつのどこが頼りになるんだ。
【急停車いたしました。安全点検のため、停車します。落ち着いてお待ちください】
こんなアナウンスが流れたって客は混乱する。
…やはり私は取り乱すこともない。
私は冷静に親に連絡を入れ、扉に寄っかかった。


