再び部屋を見渡すと、棚の上に写真があった。
写真には小学生くらいの少年と両親と思われる大人が2人。
おそらく高梨ファミリーか。

あれ、でもさっき見た高梨の母さん…じゃないよな。


「気になる?」

「え…ああまあ…」


妙に落ち着いて高梨が言う。
…聞いていいのかな。


「この人、お袋じゃないんだよ」

「ふーん」

「生みの親。小2の時、死んじゃった母さん」

「へー、美人だな。高梨は母さん似じゃないか?」

「………」


返事が返って来ないから、見上げてみると高梨は驚いて私をみていた。
あれ、なんか変なこと言ったか。
父さん似だったとか。


「たかな…」

「同情しないの…?」

「…してほしいのか?残念だけど私は気の利いた言葉をかけるのが苦手なんだよ。きっとお前の気持ちは"悲しい"とか"辛い"とか、そんな言葉じゃ足りないだろうから、安易な同情は出来ない。でも、話を聞いたり、そばにいることは出来る」

「…市ノ瀬」


突然高梨は頭を私の肩にのっけた。
身長差約20センチ。
なんだか、今の高梨は少し弱く見えた。

ポンポンと頭を叩いてやる。
きっと言葉にならない気持ちを私に伝えようとしてるんじゃないかな。
いつもはポーカーフェイスでエースで強い高梨が、私にこんな一面を見せてくれるのが嬉しかったりする。


「全くさぁ…市ノ瀬は頼りになるよ」

「そーか?ふふ、ありがとう」


視界に入る高梨の手がぐっと握りしめられた。
なにか堪えてんのかな。

少しすると、高梨は離れた。


「あ、厠かして」

「お手洗いって言ってよ…案内するよ」


私は立ち上がってトイレに向かおうとした。
しかし、酷い立ち眩みでフラつき、座布団に躓いて倒れた。
それを助ける為に高梨は手を延ばしたが、高梨自身もバランスを崩した。


「いっつ…」

「大丈夫?あっ市ノ瀬…!?」


私は激しく頭を強打。
かろうじて開いた目に映るのは、高梨と天井。
あれ、おかしいな。


なんで押し倒されてんだろう。


なんだか変に心拍数が上がる。
高梨も動揺して、目が点だ。
心なしか顔も赤い。