それから2人で(仕方なく)練習したけど、なんかうまくいかない。
「何が足りないんだろう…愛か?」
「え?愛込めてくれるの?」
ギャグで愛、とかいってみたら高梨がニヤリとした。
いや別にお前への愛じゃないから。
バトンに込める愛だから。
「多分市ノ瀬の押しが足りないんじゃない?」
「押し?」
「俺がバトン掴んだら、グッと押してみてよ」
「…うん」
言われた通りにやってみる。
全速力で走る私の前方5メートルで高梨が手を出して走り始めた。
バトンが触れた。
思いっきり押した。
「うん、良い感じ!」
「おお!すげぇ!」
「うまいじゃん、市ノ瀬」
ポンポンと撫でられる。
高梨は私の頭を撫でるのが好きだ。
見上げてみると夕焼けで高梨が一瞬かっこよく見えた。
いや!幻覚だ!
恥ずかしくなってくるっと振り返ると、木の影から女子が見ているのが見えた。
ん?あの子って…
「なあ、高梨。あの子、この前電車にいなかったか?」
「……どうだろ、覚えてないな」
「…そっか」
女子は私達が気が付いたのを察知すると、そそくさ帰って行った。
なんだろう。
なんか用があったのかな。
高梨は冷たい視線で彼女の背中を見ていた。
ちょっとだけ怖かった。


