その後はよく覚えてない。
…嘘ついた。
鮮明に覚えてる。
私が寝てから40分後、ようやく電車は動き出した。
ポンポンと頭を叩かれ目を覚ました私は我に返る。
うわぁ、恥ずかしい。
そーっと高梨をみるとおはよう、と微笑まれた。
ちくしょうムカつくし、恥曝しだ!
「送っていこうか?」
「いい。いらない」
「そっかー。気をつけてね」
どうして今日はこんなに優しいのだろう。
この1年マネージャーやってきて、高梨がこんなに優しいのは初めてだ。
そもそも高梨を知ろうとしなかったからだろうか。
自分の駅に着いたときに振り返ると高梨は手を振っていた。
憎らしいほど微笑んでいたが、私の中の高梨への好感度はあがっていた。
少し軽い足取りで、私は家に帰った。
家に着けば真っ暗。
母さん夜勤か。
賢一は塾。
ぐぅとなるお腹を押さえて、リビングの電気をつけた。
テーブルにはラップが張ってあるおかずが3品。
自分の分のお椀と、小さなお皿にご飯をよそう。
小さいお皿をもって、隣の部屋の仏壇へ供えた。
手を合わせて、思う。
ただいま、父さん。
遺影に写る父さんは、不器用に笑ってお帰り、と言っているようだった。
笑顔が得意な高梨とは大違いだな、なんて思ったりしてふっと笑った。


