「別に、いいけど」
「約束ですよ!そうだ、これ預かってて下さい。次にあう時まで」
少年が手渡したのは小さな十字のネックレスだった。足早に立ち去ろうとする少年を、今度は夏樹が呼び止めた。
「ちょっと、名前は?」
「クルスです。じゃ、また」
少年はそう言うとエレベーターホールへと消えていった。

「何だったんだ…?」
俺は手の中の十字架を見つめた。アンティーク調の十字架を見ていると、なにか不思議な力でも備わっているのかと思ってしまう。
「とりあえず、帰るか」
夏樹は制服の胸ポケットにネックレスをしまい、エレベーターホールに向かった。

「おい、渡会」
街中を歩いているとクラスメートに呼び止められた。
「あの話、ホントかよ」
夏樹はすぐに数人の少年によって取り囲まれた。
「何のことだよ」
「瀬名結子、殺したって話」
耳打ちの後、少年たちはゲラゲラ笑いだした。
「そんなわけあるかよ」
そんな答えを相手も予測していたようだ。
「言うと思ったー!!」
「すぐバレるだろうけどね」
「自首しろよ」
ひと通り言い終えると少年たちは満足して立ち去った。こんなことがここ数日、何度も繰り返されていた。

自然と夏樹の足は海浜公園に向かっていた。同級生の瀬名結子が何者かによって殺された場所。誰かが手向けた花束を見つけて、手を合わせた。特別親しかったわけではないが、事件のことは心に重くのしかかっていた。ましてや、関与を疑われているとなると、気持ちは落ち着かなかった。