君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―

聖人は夏樹に母親の死を告げた。夏樹は少し寂しそうな表情を浮かべたが、涙を流すことはなかった。まだ事態がよくわかっていないのかもしれない。二人は交番から児童相談所に移動し、夏樹を迎えに来るという人物を待った。

渡会実花はシングルマザーで、しかも身寄りがなかった。そのため、離婚した元夫が夏樹を引き取るのだという。

「夏樹」
部屋に入ってきたのは聖人と同じくらいの年の男だった。
「裕之さん」
夏樹は立ち上がり、男を出迎えた。
「はじめまして、渡会裕之と申します」
男が深々と頭を下げる。聖人も頭を下げた。
「来栖聖人と申します」
「この度は夏樹がお世話になりました。これからは私が責任をもって育てます」
裕之は夏樹の手を握った。
「裕之さんと、暮らすの?」
「うん。今日から僕の家においで」
聖人は夏樹が「お父さん」と呼ばないことに驚いたが、二人の仲が良いことを感じてほっとしていた。
「それでは、私はこれで」
聖人はもう一度頭を下げて、相談所をあとにした。