その言葉に遠藤さんは明るい笑顔をこぼして、こう言い放った。


「よかった。じゃ、行こうか」


遠藤さんと並んで歩き出す。


真正面の「ルージュ」の自動ドアが私たちの目の前で開く。


そして、黒服に蝶ネクタイ姿のウェイターが「いらっしゃいませ」と深く腰を曲げて頭を下げた。


「予約していた遠藤だけれど」


遠藤さんがそう言ってウェイターの顔を見る。


「はい。遠藤様ですね。少々お待ちください」


落ち着いた口調でそう言い終えたウェイターは消えたかと思うと、すぐ戻ってきて「こちらでございます。お席までご案内いたします」と言って私たちを誘導した。


店内は照明を落としていて高級感が漂っていた。


上質なカーペットが敷かれている店内をゆっくり靴音を立てずに見渡しながら歩く。


ダークブルーのモダンな椅子に白いテーブルクロスがかけられたテーブルは大人を連想させる。


客は、タキシードやイブニングドレスといった豪華な装いのセレブ層もいれば、地味なスーツや普段着に近い庶民的ファッションの人もいてさまざまだった。


私たちがいるフロアの中央にはグランドピアノがあって、それがひと際目を引いた。


ピアノに目を奪われていた私の前を歩いていたウェイターが足を止め、窓際の席に座るようにと促す。


そのウェイターが引いてくれた椅子の上に私は腰を下ろす。


次に、遠藤さんが座るとウェイターは立ち去った。


「薫ちゃん、座る時は左からだよ」


遠藤さんがイタズラっぽく微笑むと小声で私に教えてくれた。


やってしまった。