一応、マナー本は読んできたけれど、ぶっつけ本番で挑むから体当たりデートだ。


どこまで内容が頭に入っているだろう?


そこまで考えると、ますます気分が悪くなってきて帰りたくなった。


このデートで大恥をかくことになるんじゃないだろうか?


もし、それならここへ来ない方がよかったかもしれない。


もう、気が変になりそうになりながら待つより逃げ帰った方が精神的に楽になれそうだ。


このまま、ビルを出ようか?


鏡に映った自分に「どうする?」と心の中で問いかけてみた。


その時、鏡の中の自分の後ろに人影が映った。


鏡の中で、その人と目が合う。


その人は、鮮やかな光沢のある紫色のネクタイをして黒のスーツをビシッと着こなした紳士だった。


「遠藤さん……」


私は呟くと同時に、後ろを振り返る。


遠藤さんは苦笑いしながら、こう謝った。


「ごめん、ごめん。10分も遅れたね」


そうして、なお言葉を継ぐ。


「薫ちゃんに遅れるって連絡入れようか迷ったんだけど、もう着いてた。待った?」


聞かれて少し、私は戸惑った。


私も少し遅れてきていた。


「いいえ。私もちょっと遅れたから」