「このベッドは高かったんだ! 捨てるわけにはいかない! それに、新しいベッドを買えるだけの余裕があるわけないだろう!?」


「どうして!?」


「さっき、何を見たんだ!?」


その問いに言葉が詰まる。


厳めしい表情の葵の瞳の中を覗く。


私が見たのは葵が加瑠羅さんに金銭を要求され渡すところだ。


それが原因で葵も金欠病なのかもしれない。


でも、ハッキリ男らしく断ればいいじゃない。


あの時、折れることはなかったのにと思う。


「貸さなかったらいいじゃない? どうして貸すの? 貸すからあの人だって図に乗るんでしょ?」


私の主張に一瞬、葵は怯んだ。


でも、怒りを込めた目付きに変わる。


「うるさい!」


部屋中に葵の怒鳴り声が響き渡る。


地震のように床が揺れたような錯覚に陥った。


「いちいち理屈っぽいんだよ! だいたい、ワガママじゃないか! ベッドを買い換えろなんて! お姫様気取りもいいかげんにしろ! 大人に甘えるな!」


怒り狂った葵がまくしたてる。


「お姫様気取り? これのどこが? 元カノと同じベッドで彼女が寝てるんだよ? そういうの気にしないの? 少し配慮が足りないんじゃない?」 


葵の咎め立てに私は負けじと反撃する。


「減らず口を叩くな! もう、うんざりだ! 加瑠羅といい薫といい女は面倒臭い!」