冬眠から目をさましたクマは食べ物を探していました。

ああ、とけた雪と土がまざったいいにおい!

嬉しくて鼻をひくひくさせながら歩いていると、風に乗った別のにおいがしてきました。

ーーこれは、あのこのにおいだ!

嬉しくて嬉しくて、こぐまの時みたいに山を駆けぬけます。

山道を歩いていたのは、女の人と男の人でした。

クマは言いました。

「ぼくだよ!」

女の人と男の人は悲鳴をあげて逃げてしまいました。

……ぼくのことを忘れてしまったの?

クマはうつむいて森に帰りました。

村まで逃げてから、男の人はいいました。

「さっきのはもしかしたら、君がいちど話してくれたしゃべるクマだったのかもしれないよ」

「あんなの私の思い込みよ。ああ怖かったわ」