誠を通して見たもの…

井戸まで行くと案の定そこで吉田が吐いていた。


俺に背を向け吐いている吉田の背後からそっと近付き声を掛ければ驚いた顔をして振り返る。


俺と目が合った瞬間、視線をさ迷わせ居心地の悪そうな態度をする吉田に少し苛立つ。まさにそれは“知られたくなかった”そんなことを如実に表しているようだったから。


井戸から俺の部屋へと場所を移して吉田を問い質せば、俺には到底理解することが出来ない答えが返って来るばかりで、正直何と声を掛けたら良いか分からず、ただ吉田の話を聴くことしか出来なかった。


吉田が心に抱えていた毒は“当事者にしか知り得ないモノ”……


この世には実際に体験しなければ分からない事が沢山ある。


例えば“百聞は一見に如かず”という言葉があるように、どんなモノなのか耳で聞くよりも実際に自分の目で見た方が遥かに理解しやすい。つまりは吉田が体験した“時代を超える”という事は、俺達かしたら非現実的な事であってそれがどんなモノであるか想像し難く、またそれを体験することで心にどんな作用を及ぼすのかなんて分からない。


今の俺には吉田が抱えているモノをまだ理解出来ていないのだ。


何も理解していない今の俺には下手な慰めの言葉を述べるよりも、ただ静かに吉田に寄り添い話を聴いてやることしか術がなっかた。