茜はしばらく目を丸めていたが、力が抜けたようにふっと笑う。
そして、はぁーっと深く息を吐いた。
「もう……そんなの言われたら話さなきゃいけなくなるじゃん」
茜は隠しておきたかったんだと思う。
だけどそれで茜が辛い思いをするんなら、ちゃんと話してほしかった。
「あたしが日本に来た本当の理由はね……親と喧嘩からなんだぁ」
「…え?」
「蒼と誠に会いたかった。それは嘘じゃないよ?でも…それなら会いに行こうと思えば会いに行けた。今…蒼に会いに来たのは、親と喧嘩して…何もかも忘れたくなって…逃げたくなったからなの」
「あたしは優しい蒼を利用してたんだよ」と茜は悲しそうにほほ笑む。
茜の親は凄く優しかった。
茜を大事にしていて…喧嘩してるところなんて見たことが無かった。
「親と喧嘩って…なんで?」
「些細なことだよ、ほんの些細なこと。後悔してる。こんなことで喧嘩したなんて…」
その喧嘩の内容までは茜は教えてくれなかった。
俺も深く聞こうとは思わなかった。
茜がすごく、悲しそうだったから…
「じゃ…暫く向こうには帰らないのか?おばさん達…心配してるだろ?っていうか…知らないんじゃ…」
「…あたしがここにいることは知ってるはずだよ。彼から聞いているだろうから…」
「…彼?」
茜はやんわりとほほ笑む。
「あたしの…大切な人」
それを聞いて、俺は一瞬時が止まった様に感じた。
「それって…彼氏ってこと?」
「…婚約者なの。親も認めてて…」
その瞬間、俺の肩ががっくりと落ちた。
もう…茜は前に進んでいるんだな。
俺だけだ。前に進んでいないのは。
「アメリカに来たばかりの頃、出会ったんだ。蒼のことが恋しくて…ずっと泣いていた。誰とも話す気なんてなくて…日本に帰りたいってそればっかり考えていた。そんなあたしに優しく声をかけてくれた。今のあたしがいるのは…彼のおかげ」
茜の表情からその人が愛しいんだと感じる。
俺の想いは…もう茜には届かない。

