その時−−−
キィと屋上の扉がゆっくり開く。
屋上に入ってきたのは、今俺が気持ちを伝えたかった女の子だった。
茶色いふわふわした長い髪を風に靡かせて、ゆっくりと俺の横を通り過ぎる。
まるで、俺の存在が見えていないかのように…。
「あ…」
彼女の背中に声をかけようとする。
彼女はそれに気付き、ゆっくりと振り返る。
「…何?」
初めて聞いた彼女の声は強く頭に残った。
高く…澄んだ綺麗な声
体中に電流が走ったみたいだ。
「何か…用?」
「あ…いや…」
ここではっきり言えない自分が嫌になる。
彼女は呆れているかもしれない。
彼女がいなくなる前に…ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
俺はふぅーっと大きく深呼吸をする。
そして、真っ直ぐ彼女を見た。
「…俺と付き合ってください」
なんとか言葉にした声は柄にもなく震えていた。
彼女は無表情のまま、じっと俺を見つめる。
早く此処から立ち去りたい。
恥ずかしさでいっぱいだった。
「…ごめんなさい」
彼女は頭を下げ、俺に謝る。
まるで此処だけ時が止まったようだった。
「…好きな人がいるんです」
「そっか…もしかして彼氏?」
俺が尋ねると彼女は首を横に振る。
そして、悲しげな笑みを見せた。