誠が帰ってから、俺たちは一言も交わさなかった。
俺はベットに座って、茜は携帯をいじっていた。
茜は突然立ちあがり、俺を見下ろす。



「ちょっと、おばさんのとこ行ってくるね」



「あ、あぁ…」



部屋の扉がぱたんと閉まると、俺の口からため息が漏れた。



俺はどうかしているのかもしれない。
茜が久しぶりに戻ってきて…こんなにも嬉しい。
幼なじみなんだから当たり前なんだろうけど…



それとはまた違う、感情のような気がする。
やっぱり…初恋の子だったからなのだろうか…。
俺はこの気持ちを振り払いたくて、芹奈に電話をかけた。



『蒼?どうしたの…?』



「ちょっとだけ話せるか?無理だったらいいんだけど…」



『いいよ。ちょうどお風呂から出てきたところだし』



「…わりぃな」



今は茜じゃない誰かと話したかった。
俺は…芹奈を利用しているのかもしれない。



「実は…さ、さっき俺の幼なじみが帰って来たんだ」



『それって…今日話してた初恋の子?』



「…あぁ」



芹奈が電話口で黙りこむ。
何話しているんだろう。
芹奈を不安にさせることなのに…



そう思っていると、芹奈は電話口で口を開く。



『……会ってみたいな』



「…え?」



今…なんて言ったんだ?



『会ってみたい、その子に。だって…蒼の幼なじみなんでしょ?』



芹奈が…電話口で微笑んでいる気がした。
芹奈は…俺のことを信じてくれるんだな。



「…あぁ。話してみるよ」



その後、俺たちは他愛もない話をした。
その時、茜が悲しそうに顔で俺を見ていたなんて…全く気付かなかった。