そして次の瞬間、俺の時が止まった気がした。
パンっと愛は俺の頬を叩いた。
愛の目は涙で少しうるんでいた。
「…優しすぎるんです。そんな先輩を悪くしているのは…あたしなんですよ?あたしを…庇わないでください」
「…愛?」
「いい加減…解放してあげます。もう…先輩のこと、好きじゃありませんから」
そう言って愛は俺に背を向けた。
それは愛の最後の強がりなんだと俺は気付いた。
気付いたから、その背中を抱きしめた。
「…ごめん、ありがと」
「嫌いだから…お礼なんていらないですから」
「それでも…ありがと」
愛と付き合って改めて気がついた。
やっぱり俺は、芹奈じゃないとだめなんだ。
「さようなら、蒼先輩」
そう最後にほほ笑んで、愛は俺の腕からするりと離れた。
去る瞬間、愛が何か芹奈に言っていたのが目に入ったが、何を言っていたかは分からなかった。
ただ…これで君に『好き』と伝えられるのが嬉しくて…
俺は思わず、戸惑う芹奈を抱きしめた。
「き、桐谷くん?」
「…蒼でいいよ」
「あ…蒼…」
芹奈は恥ずかしそうに頬を赤らめ、上目遣いで俺を見る。
好きで好きで…大好きな君をこうして抱きしめられて幸せだった。
「……いっぱい傷つけてごめんな?」
芹奈はぶんぶんと首を横に振る。
髪が乱れているのに、全く気にせずに俺をじっと見た。
「…あたしは傷つけられたとは思っていないよ?蒼は…誰よりもあたしに優しくしてくれた。一人でいるあたしに…声をかけてくれた。貴方はすごく…優しい人だよ」

