芹奈side



人を好きになったことなんてない。
大切な由貴さんでさえ…あたしは何処か距離を置いているの。



家に帰っても、あたしを見てくれる人はいない。
大好きな母親は幼いころ、自殺してしまった。



綺麗で優しいお母さん。
お父さんと仲が良くて…あたしは憧れていた。



なのに…どうして?



お母さんが穏やかに微笑み、亡くなっている姿がいつまで経っても脳裏から消えることはなかった。
お父さんは悲しい顔1つ見せなかった。



そして…お母さんが亡くなってからしばらくして…新しいお母さんが来た。
それは…幼なじみだった由貴さんのお母さん。



その時、あたしは初めて父親が由貴さんのお母さんと交際していたことを知った。
どうして…お母さんのことを愛していなかったの?



あたしは…父親が信じられなくなった。



大好きだった父と母。
あの笑顔は偽物だったの?



だとしたら…酷すぎるよ。
ねぇ、お父さん。
お母さんのことをどう思っていた?



「お母さん…」



ぽろぽろと涙が流れる。



お母さん…きっと辛かったよね?
お父さんが由貴さんのお母さんと付き合っていたと聞いた時。



どんな思いで…死を選んだの?
聞きたくても聞けない。
届いてほしくても、もう届かない。



「芹奈」



溢れる涙をこらえきれないでいると、懐かしい声があたしを呼ぶ。
扉のほうを見ると、大きな花束を持っている父親の姿がった。



「…お父さん」



「学校で倒れたって…大丈夫なのか?」



「誰から…」



「由貴君からだよ」



由貴さん…お父さんに電話したの?
今…一番会いたくなかった。