茜は朝ごはんを食べてすぐ、帰る支度をしていた。
もう少しいればいいと言った俺の言葉に茜は首を振った。



「このままいたら、本当に離れたくなくなっちゃうから」と。



茜はここにいることよりも、向こうにいることを選んだ。
それはきっと、大事な人がいるからだろう。



幼なじみと同等に大事な人。
茜はその人をいちずに想っている。
きっと、俺の時よりも…
少しさみしい気もするが、お互い前に進んでいると実感した。



「じゃ、もう行くね」



俺は家の前で茜を見送った。
空港まで見送りたかったが、今日は学校だった。
隣には、まだ眠そうな誠もいた。



「あぁ、またな」



「向こう着いたらメールしろよ」



それ以上、言葉が続かなかった。
もっと話すことがある。



またこっちに戻ってこいとか、今度は彼氏を連れてこいとか。
なのに何も言葉にできなかった。
俺たちの間に言葉はいらない。



「誠…蒼…本当にありがと」



茜はぺこりと頭を下げ、涙を浮かべる。
俺たちは顔を見合わせ微笑んだ。



「また…会おうね」



そう言い残し、茜は手を振って俺達から離れて行った。
あの時とは違う気持ちで、俺は茜の姿が見えなくなるまで見送った。