ちなみに、三条はこのオッサンが自分の父親だということを知らない。
三条は、自分が生まれてすぐに父親は交通事故にあって他界したと母親から教え込まれていた。もちろん、オッサンのほうも、元カミさんに口止めされているようで、自分が三条の父親だということを知らせられずにいる。
そのため、オッサンは三条自身に、自分の正体に気づいてもらおうと、日々何かしらのアプローチを行っていた。
……まぁ、三条からしてみれば、死んだはずの父親が生きていて、自分のすぐ隣にいるだなんて思いもしないだろう。現状としては、三条はオッサンのことを苗字が同じな、ただの小うるさい体育の先生としか認識していなかったが……。
「流君、何かお悩みですか?」
「ああ、まぁ大したことじゃない」
「上手く解決できたじゃろっ!? これも先生の人徳の成せる技というものだなっ! そうだろう日堂君!?」
「…………ちっ……」
「おい、今舌打せんかったか、おい、お前」
「あはははは、それじゃあ三条、そろそろ行こうか!」
「ええ、それでは先生、流君がお世話になりました」
「ままままま、待ちたまえ、ささ、さ、三条さん!」
顔を真っ赤にし、自分の娘の苗字を呼ぶ父親。なんか色々悲しいな。
