「ただアイツを見てるだけってんなら、
俺はどうかする気もない。
こっちだって、ただ見てるだけだ」

ただな、一番嫌な事がある。

憎々しい表情で久芝先輩の個室へのドアの少し横を睨みながら先輩は言った。


「男が、惚気てきたり、
挙句には恋愛相談までしてくる事だ」

どうだ、最悪だろ。と、同意を求めてくる先輩に、そうですねと俺は頷いた。


幽霊に怯える人と、同じ幽霊がうっとおしい人。
ある意味、呪いを疑ってしまう。


「因みにさっきは、間接キスだと抜かして飲み干してた。吸い上げていた」

思い出したのか、眉間に皺を寄せる樫本先輩。

それにしても、キスしているのに間接キスをしたがる幽霊か。
している事や、それを話す先輩の表情からしても、彼らの気は合わないらしい。大変そうだ。
そんな事を思い、彼に適当な慰めの言葉をかけていると、2人が戻ってきた。

全面的に信じてもらえたであろう久芝先輩はスッキリとした顔をしていて、千秋は楽しさを隠せない顔だ。


「それじゃあ、失礼しました!」

嬉しそうな千秋が書き上げた記事は、後日、学校新聞に掲載された。

人名は暈されているものの、久芝先輩の語った事が手短に書かれていて、見出しとメインはこうだ。

『記者は見た!消えた紅茶!』


……自分が立ち会った事が一番嬉しかったのは解った。
だけど、そう来るのか。

久芝先輩が納得してくれた事を、俺は願う。