「俺には、幽霊とかそういうものが見えるんだ」

騒がれたくないし、変な目で見られたくないから、周り、特に千秋のような奴には知られたくないらしい。
だけれど自分の話を誰にも知られていないのも、イーブンな気がしないから、と。
2人には言わない事を条件に、先輩は語った。


「男は、この部屋じゃなく、久芝に憑いているんだ」

やっぱり。
樫本先輩は、幽霊なんて居ない。とは最初から言っていなかった。
何か含むものがあるようだと、俺はそう感じていたから、ここでようやく納得した。


「アイツは兄弟が多いって言ってたから、きっとこれまでは気づかなかっただけなんだろうな」

それが入学して、寮に入って。
一緒に過ごす人数が減ると、ようやくその、熱い視線に気づいた、と。


「寝起きによく視線を感じたのは、
アイツの寝顔を男が一晩中見つめているからで、食事中は……」

心底嫌そうに語る先輩の口が、
とてつもなく言いづらそうに止まった。

そして深い深いため息を吐いて、項垂れながら続きを話す。

「食べている姿に性的な感情を覚える奴もいるらしいな……それなんだ……」

つまりは、幽霊の男は久芝先輩を愛すストーカーという事だと。

特に害を与える気はないけれど、
見つかって驚かれるのは、本人にもどうしようもない事なだけ。

「金縛りは抱きつかれていたからで、
息苦しいのも喋れなかったのも、
男にキスされていたから。
風呂場で背筋が凍ったってのも、
抱きつかれて寒かったんだろうな。

あと生暖かい風ってのは、
感づいてるだろうけど……ハアハア荒げてる息だ」


……言われた通り、察していたそのままだった。

それにしても、樫本先輩は、事情に詳しすぎないだろうか。
男と会話でもしているんだろうか?

そんな疑問を浮かべたと同時に、
顔を上げた先輩は、また喋りだした。