もう後戻りはできない。
私はもう戸籍上 恒くんの奥さんになったし
今さら実家に戻って地元にいるのもいやだし
ここにしかもう居場所がないから。

表面上だけで
二人っきりの時は
別に気をつかわなくていいなら
その方が気が楽だし……


「じゃあ戦場に乗り込もうか。
紅波の頭のいいとこ見せてもらうか。」

意地悪くさく言った恒くんの言葉に
スイッチが入った。


  やってやろうじゃない


嘘に固められた私と恒くんの夫婦ごっこ
たくさんの人間をだましてやる。
私がどんだけ実践で演技して生きてきたか……。

「まかせなさい。」


私は化粧直しを始めた。

薄いピンクのリップを塗って

「どう?」と運転している恒くんに言った。


恒くんは信号で止まって私を見つめて

「合格。」と言った。


なんだろ…その言葉にすっごく
テンションアップする。

「じゃあ…行くぞ。」

車が右折した。