紅波と一緒にいるのは心地よかった。
契約事項をよく守ってくれるのは 紅波は
昔からけっこう律儀なタイプだったから。

俺は俺の好きなように暮らせていた。


そんな中で紅波に言われた言葉が


  偽善者

だった・・・・・・・。


その日から 俺の心に変化があった。
千鶴への愛は ただ単に自分のプライドのためにある
執着心だということに気づき始めていた。


だけど俺を頼ってくる千鶴を抱きしめるたびに
俺の心は激しく揺れ動いた。

このまま体ごと奪ってやりたい。

でも結局 千鶴の心の中には前がいる。

前しか見えていない。

俺はただ利用されているだけ……。


自殺未遂を計った千鶴はずっと 前の名前を
呼んでいた。

もう俺の完璧な負けを認めて潔く
引き下がるしかなかった。

出張先から飛んで戻って来た前を見てると
愛ってけっこういいもんだって思った。

自分ができなかったことは
前ならきっとやってくれるって……。


俺の過去はここで完全に終止符を打った。