夫婦ごっこ

「そうした方がいいか?」恒くんが言った。

「ごめんなさい。私のことで
お仕事うまくいかなかったんでしょう?」

恒くんは少し驚いた顔をしたけど

「気にするなって。大丈夫だったよ。
紅波のせいじゃない。俺の普段の行いが悪いから
足をひっぱられたんだって…。」

「知らなくて…イヤなことたくさん言われたんでしょ・・・。」

「やつら噂好きだからな、いいんだって。
それより…紅波はこれでいいって思ったんだね。」

離婚届をテーブルに置いた。

「・・・・・もう迷惑かけられない。」

「迷惑とかじゃなくて
紅波がもう夫婦ごっこイヤになったってことだろ?
自分の歩きたい道を見つけられたんだ。」

涙が溢れてきて嗚咽でうまく
言葉を言えなかった。


  違う・・・もう夫婦ごっこが辛いだけ……。


「私・・・・私・・・・ヒック…ヒック…。」


恒くんは私の肩を抱き寄せて

「紅波ごめんな。俺が自分勝手だったから
おまえに辛い思いをさせてしまった。」


  そうじゃない…そうじゃないの……

一緒にいたかったのは私の方なんだもん。

「あいつのとこ…行くんだな。」

恒くんはそう言うと 玄関を出て行った。