夫婦ごっこ

恒くんの腕の中にいたら 気持ちをぶちまけて
しまいそうになる。

でもこれを言ったらきっと恒くんは
二度と優しく笑ってくれなくなると感じていた。



「嘘…つくなら上手くついてね。」

「ん?」

「私はこの生活があればいい。
もう行くとこなんてないし…ここで
恒くんの奥さんしてるのが 今は一番幸せだから…。
私の居場所はここしかないんだ…。
だからこの場所を奪わないで…。
私を解雇したりしないで……。」

すがるような思いだった。


「紅波……。おまえ……。」


「怖いんだ私。恒くんにいつ解雇されるのか…。
やっと人間らしく生き初めて こんなに幸せなのに
もうお役ごめんだからって言われるの。
だから少しのことは我慢するから…私にばれない
嘘をついてほしい。」

恒くんは困ったように微笑んだ。


「ここにいたい……。
だからここに居させて……。
頑張るから……。」


「不安にさせて…悪かったな。
うん…わかってるよ。俺だって紅波を連れて来たんだし
責任はとるつもりでいるから。
紅波が本当に誰かを愛する日が来るまで
俺のところで修行しておけ。」


  誰も愛さないから……


愛してるのは…あなただけ……。