「あ、お、おかえりっ! えっと、昨日の残りのカレーだったらすぐ食べられるけどそれでいい?」

「ええ~? またカレーかよお、俺今日はトンカツ食いてえって朝言ったじゃん! だーから姉ちゃんは……」

 駆け寄ったあたしにいつものように文句を言いかけた優は、はた、とそこで言葉を止めた。

 おそらく視界に入っていなかったのであろう人物の存在に気づいたからに違いなくて。

「どうもっ」なんてお気軽に片手を上げて挨拶までしてくれちゃった不審人物――アモルを指差して、優は大口を開けた。

「えーっ? もしかして姉ちゃんの彼氏? 彼氏? うっそだろお? まさかまさかの初彼氏? さすがは元ミッションスクールの進学校に通ってるだけあって、清楚でしとやかな理想の女の子よねえーなんて近所では言われてるけど蓋開けたら単なる猫かぶり、我が家の肝っ玉母ちゃん役の姉ちゃんがあ? まっじかよお! むぐっ、むぐぐぐっ」

 苦しいよ、姉ちゃん――おそらくはそんなことを訴えているのだろうが、もちろんそれ以上喋らせるわけにはいかない。

「やあねえ、ただのお友達なのに。まったく、優ったら恥ずかしいわよ?」

 ニコニコと、穏やかに言い聞かせる言葉とは裏腹に、優のお喋り口を押さえ込む手の力は強くなる。

 言っとくけどこのチビ怪獣たちの世話してきた年月はもう六年を数えるのだ。

 いくら高学年になって体だけはでかくなってきたとはいえ、まだまだ弟なんかに負けるものか。

「姉ちゃん、それ以上やったら優のヤツ死んじゃうかもよ?」

 冷静な一言が聞こえて、はっと振り返る。そこには目の前で暴れているもう一人と全く同じ顔で、自然に下ろした髪型だけが違うチビ怪獣二号がいた。双子の片割れ、翔(しょう)である。

 ただしこちらはサッカーではなく空手の帰りで、白い道着姿のまま呆れたような半眼で見上げられ、我に返って手を離した。