「浮いてるんじゃなくて飛んでんだよっ。っていうか当たり前だろ? アロウ・シューターなんだから。あああ、そんなこと説明してる場合か、俺! 時間がないってのに、こんなとこで人間なんかと悠長にお話とかしちゃってる場合じゃねーってんだよっ! あれっ? そういえばお前、なんで人間のくせに俺が見えてんだ?」

「あ、あろう……? 人間……?」

 あたしは人間。それは間違いない。

 そんでもって、このふんわりやわらかそうな羽なんか背中から生やしちゃって、しかもパタパタ動かしちゃったりなんかしてるこの美少年は――やっぱり、人間じゃない、ってこと……なーんてことがあるわけが。

 ええっと、この聖なる場所にふさわしい存在――例えば天使、はさっき否定されたから違うとして。じゃあ……何?

 まさに金魚のように口をパクパクするしかない可哀相なあたしを、あろうことか美少年は鼻で笑ってみせる。

 白い優雅な衣装――腰の辺りを茶色い紐で結んだ、ひらひらした膝丈程度のワンピースみたいなもの――をパンパンとはらうと表情を引き締め、落ちていた弓矢をガッと掴もうとして――バリバリッと電流のようなものが走ったショックで、それを落としてしまった。

「うわ……サイアク。やっぱりお前、触ったんだな? こんの野郎! どうしてくれんだよおっ! 俺の今月のノルマがあ、ノルマがあ……っ!」

 外見をことごとく裏切る勢いで美少年はしゃがみこみ、金髪の頭まで抱えた。

 その悲劇的な形相に、固まっていたあたしの唇が動く。

「ノルマ……?」

「そうだよっ! ノルマだよ! ひと月に最低五組のカップルを成立させること! 昔は三組でよかったのに、上が変わった途端、一気に二組増やしやがって! ああ、これだから下っ端は嫌なんだ。文句も言えず下された命令をひたすら守って、必死でノルマ果たさなきゃなんないんだからな。駆けずり回って、ようやくあと一組ってとこだったのに――全部水の泡じゃんか。どうしてくれるんだよっ、人間!」

 あたしの呟きにキッと顔を上げて、憤然と立ち上がった彼は、どうやら触れられないらしいその弓矢を指差して、噛み付くように叫んだ。