ふわり、と優しい風が吹いて、髪がなびいた。

 まるで、あたしの泣き顔を、誰かの手がそっと撫でてくれたような――不思議な感覚。

「あれ、窓閉まってるはずなのに……?」

 涙を拭くことも忘れたまま、ふと顔を上げたあたしは、そのまま両の瞳を見開いた。

 だって、見てしまったのだ――その場にあるはずもない、不思議な物体を。

「何? あれ……矢?」

 確かに、それは矢に見えた。

 正確には弓も一緒だったから、弓矢、と言うべきか。

 赤い、鮮やかな色をした、ハート型の弓。

 そこに重なって落ちているのは、金色の矢。

 ついでに言うと、尖っていないほうの先には小さな赤いハートがくっついている。

 正面の祭壇の下に無造作に置かれた――いや、落ちていた、と言っていいのか――そのセットに、あたしは首を傾げる。

「さっきまで、なかったと思ったけど――」

 失恋のショックでちゃんと見ていなかっただけかもしれない。

 でも、確かにさっき入ってきた時には、こんなものはなかったはず。

 誰かの落し物、にしては可愛らしすぎる弓矢。

 子供のおもちゃだろうか、でもなんでこんなところに――? 

 首を傾げつつ、近くまで歩み寄って見ると、意外なほど精巧に作られていた。

 特に弓の両端に張られた糸――弦っていうのかな?――なんてピンと張って丈夫そうで、本当に矢を射ることができそうなくらいだった。

 思わずまじまじと眺めて、感心してしまう。

 突然出現した不思議な弓矢を見ていたら、ほんの少しだけさっきまでの辛さが遠のく気がした。鼻をすすって、思わず独り言。