「手帳に載ってたカップルの男女の位置は両方特定できた。だからあとはうまくアロウで胸を射るだけでよかったのに……」

「ひと月で五組……って言ってたよね? それだけのカップルを成立させられないと――ノルマが達成できないと、どうなるの?」

 がしがしと頭を掻いて、本当に困った顔でため息をつくアモルに聞き返す。

 正直、見知らぬカップルの恋がどうのといきなり言われても、実感なんてわかない。

 でも、目の前の人物――って明らかに人外の存在ではあるけど――が困っているのはわかった。

 多少――いやかなり、態度がでかすぎる気はするけれど、本気で困っているからこそだと言われれば、納得してしまうような落ち込みようなのだ。

 それが少なからず自分のせいと思うと、申し訳なくもなるというもので――。

「ノルマが達成できねえと、研究生扱いに格下げ。つまり、給与も出ねえただ働きに舞い戻るって仕組みだ。やっと一人前になったって故郷の母ちゃんも喜んでくれてたのに――俺の給料がなかったら、家族十人が養えねえってのに。あー俺は一体どうしたらいいんだあ!」

「え、給料……? 養う……?」

 なんだかキューピッド的な世界のイメージには全くつりあわない話に、戸惑うあたし。

 ノルマだとか人間社会そのものの単語にも疑問は感じていたものの、給料が出ないと生活できないだなんて、ますます所帯じみた話ではないか。

「そうだよっ! 言っとくけどなあ、別に俺たちだって人間界と多少違うとはいえ、同じように生活もあるし、家族もあるんだぞっ! まだまだ小さい妹も弟もいるのに、あいつらが路頭に迷ったら全部お前の……っ」

 そこまで言って、アモルが言葉を止めたのは、決して優や翔が部屋にやってきたわけでも、はたまた誰かが訪ねてきたわけでもなく――おそらくは、あたしの涙のせいなのだろう。

 だって、だって――あたしは、そういう話に一番弱いのだ。

 もともと緩んでいた涙腺が崩壊するには、十分な話だった。

 自然、ボロボロ流れ出したあたしの涙に何か勘違いしたのか、アモルはあわてて弁解を始める。