「ああ、市高だよ、市高」


ノートを見た彼が、なぜか私の高校名を答えた。
友人も、納得したように頷き、品定めするかのように私を見た。


「……誰って問いに市高って答えおかしくない?」


「大丈夫、それで伝わるから」


「なにそれ」


私は笑ったが、それは彼が第三者に私のことを話したことがあるということなのかと気付いて、ちょっと嬉しくなった。







『彼女?』




しかし、次にノートに書かれた文字を見て、思わず身体が硬直した。「誰が」なんて、考えなくてもわかる。


多分、私達の間で、暗黙のうちの禁止ワード。



――彼は、なんて答えるのだろう。



怖い。


下を向いて、無理矢理参考書に目を走らせる。



彼が、二言、三言その友人に何か言っていた気がしたが、うまく聞き取れなかった。

多分、無意識に聞かないようにしていたんだろうけど。




彼の気持ちが知りたいと散々思っていた癖に、いざそんな状況になると、臆病になって、聞く勇気すら持てない。

私と彼の関係が、いつまで経っても平行線のままなのは、紛れも無く、私のこの性格のせいだ。



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